脂肪肝
私たちが食事などから摂取した栄養素はエネルギーやからだを作ることに使われます。余った脂質、糖質、タンパク質は中性脂肪となって脂肪組織や肝臓に貯蔵され、必要に応じてまた分解されてエネルギーとして使われます。脂肪性肝疾患(脂肪肝)とは肝臓に余分に中性脂肪が蓄積した状態のことで、日本人の3人に1人が該当すると言われています。
これまで脂肪肝は飲酒量によって「アルコール性脂肪肝(AFLD:Alcoholic fatty liver disease)」と「非アルコール性脂肪肝(NAFLD:Non-alcoholic fatty liver disease)」に分けられていました。しかしalcoholicに「アルコール依存」、fattyに「デブ、太っちょ」という意味があるため印象が良くないこと、肥満でかつ中等量飲酒している場合や肥満以外が原因の脂肪肝もあることなどから、2023年欧米の3学会が合同で下記のように名称と分類を変更し、日本消化器病学会・日本肝臓学会もこの変更に賛同、2024年に日本語病名を下記のように発表しました。
Steatotic Liver Disease(SLD):
脂肪性肝疾患
肝臓に余分に中性脂肪(脂肪)が蓄積した状態
Metabolic Dysfunction Associated Steatotic Liver Disease(MASLD):
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患
メタボリック症候群でお酒はほとんど飲まない方の脂肪肝
飲酒量はエタノール換算で男性30g/日未満、女性20g/日未満
Metabolic Dysfunction Associated Steatohepatitis(MASH):
代謝機能障害関連脂肪肝炎
肝臓に脂肪が蓄積し、さらに炎症や線維化が生じた状態
Alcohol Associated(Related) Liver Disease(ALD):
アルコール関連肝疾患
お酒をたくさん飲む方の脂肪肝、メタボリック症候群の有無は問わない
飲酒量はエタノール換算で男性60g/日以上、女性50g/日以上
MASLD and increased alcohol intake(Met ALD):
代謝機能障害アルコール関連肝疾患
メタボリック症候群でお酒もある程度飲む方の脂肪肝
飲酒量はエタノール換算で男性30〜60g/日、女性20〜50g/日
Cryptogenic Steatotic Liver Disease:
成因不明脂肪性肝疾患
お酒も飲まず、メタボもなく、他の脂肪肝の原因もなく成因不明の脂肪肝
Specific Aetiology Steatotic Liver Disease:
特定成因脂肪性肝疾患
特定の薬剤や単一遺伝子疾患など、原因がわかっている脂肪肝
脂肪肝に自覚症状はほぼありません。早期発見するためには定期的に健康診断を受けることが大切です。お酒をほとんど飲まない脂肪肝であるMASLDでも、その2割がMASHであり、肝硬変や肝がんに進行するリスクがあると言われています。当院では腹部超音波検査と同時に肝臓の硬さ&脂肪化の程度を調べることができます。気になる方は一度ご相談ください。
急性肝炎
肝臓に急激に炎症が生じた状態を急性肝炎と言います。原因としては、ウイルス性、自己免疫性、薬物性、アルコール性などがあります。ウイルス性ではA型・B型・E型肝炎ウイルスの感染による発症が多いのですが、上記以外のウイルス(単純ヘルペスウイルス、EBウイルスなど)の場合もあります。
急性肝炎の主な症状は、全身の倦怠感、黄疸(白目の部分や皮膚が黄色っぽくなる)、発熱、嘔気・嘔吐、食欲不振などです。
急性肝炎の多くは、安静に過ごすことで治癒していきます。ごくまれに肝機能が急激に低下して重篤化することがあり、これを劇症肝炎と言います。この場合、肝性脳症と呼ばれる意識障害などがみられます。劇症肝炎は自然に回復することは難しく、肝移植が必要となることもあります。
慢性肝炎
肝臓に炎症が生じ、6ヵ月以上持続している状態が慢性肝炎です。主な原因はC型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスの持続感染です(感染経路は、輸血、注射器の使い回し、針刺し事故、入れ墨など)。ちなみに慢性肝炎の7割以上がC型肝炎、2割程度がB型肝炎です。上記以外では、薬物性肝障害、自己免疫性肝炎、アルコール性肝障害等があります。
主な症状ですが、多くの場合無症状であり、健診や他疾患の定期検査中に肝機能異常で発見されます。全身の倦怠感、食欲の低下などの症状が現れる場合もあります。慢性肝炎の状態が長く続くと肝硬変や肝臓がんの発症リスクが上昇します。適切な治療を行うことで肝硬変への進行を抑えたり、肝障害を改善させることが可能ですので、症状がなくても定期的に健診などの血液検査を受けるようにしましょう。
肝硬変
肝臓の慢性的な炎症によって、肝細胞の破壊と再生が繰り返し起こるようになります。肝細胞は減少し、そのすきまは線維組織で埋められるようになります。この繰り返しで肝臓が硬くなってしまい、肝機能が著しく低下している状態が肝硬変です。
肝硬変の原因は、ウイルス性肝炎(C型もしくはB型)、アルコール性肝障害、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)、自己免疫性肝炎などです。2017年まではC型肝炎が原因として最も多かったのですが、2018年以降アルコール性肝障害が1位となり、MASHも全体の1割を超えるようになりました。
肝臓は余力が大きいため、線維化が進んでいても肝機能が損なわれていない代償期であれば、自覚症状はあまりないか、あっても倦怠感や食欲不振程度です。さらに肝硬変が進行し、肝機能の低下が現れる頃(非代償期)になると、黄疸、肝性脳症(意識障害)、腹水による腹部の膨満感、手足のむくみ(浮腫)、胃・食道静脈瘤などがみられるようになります。気になる症状があれば早急にご相談ください。
なお肝硬変になると、肝臓がんを発症しやすくなることが知られています。
肝臓がん
肝臓に発生したがんを総称して肝臓がんと呼びます。肝臓がんは、大きく原発性肝がんと転移性肝がんに分けられます。原発性肝がんは、60歳以上の方に発症しやすく、性別では男性に多く、罹患者数・志望者数とも女性の約2倍です。
原発性肝がんは、肝臓由来で発生する悪性腫瘍のことで、肝細胞がんと肝内胆管がんがあります。前者は肝臓の細胞に発生したがんであり、原発性肝がんの95%を占めます。原因の8割がC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスの持続感染ですが、近年ALDやMASHが原因の肝細胞がんが増えています。発がん後しばらくは自覚症状はありません。進行することで腹部にしこり、張り、痛みなどが出ます。肝硬変も併発していれば、その症状も現れます。
肝内胆管がんは、肝内胆管の上皮から発生するがんで、大半は腺がんです。発症の原因に関しては、肝内結石、原発性硬化性胆管炎、肝炎ウイルスなどが関係しているのではないかと言われています。主な症状ですが、初期には自覚症状は出にくいとされています。その後ある程度進行することで、黄疸、肌のかゆみ、倦怠感などの症状が現れるほか、腹痛や食欲不振などもみられます。
転移性肝がんは、他の臓器の悪性腫瘍が転移して発生する肝臓がんです。進行肝臓がんでは転移性肝がんが圧倒的に多く、その数は原発性の20倍程度とも言われています。肝臓は血液が豊富な臓器であるため、他臓器で発生したがん細胞が血流に乗ってたどりつきやすいのです。主な症状ですが、無症状のこともあれば、元々発生している部位の症状が現れることもあります。そのほか、黄疸、食欲不振、腹水、腹痛、腹部膨満感などの症状もみられます。